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第15回

夏。

「なぁ、夏休みになったら海に行かないか?」

菊池がTOKIに言う。

「え?俺、泳げないんだよ」
「そんなの俺が教えてやるって!な?行こうぜ!睦美も連れて、みんなで二泊三日くらいで。な!行こうぜ?」

無論、それぞれの親と一緒ではなく、自分達だけでの旅行。

「あぁ、わかったよ。じゃ、しっかり金を貯めないとな」
「よし!決まり!」

菊池とは同じレストランで一緒にアルバイトをしていた。

当時、時給は600円。

一か月働いて手取りが大体7〜8万円。

「いくらくらい持っていけば良いかな?」
「4万もあれば大丈夫だろ」

学校の学費、交通費、更に私服での登校の為、衣類に金がかかり、貯蓄額は常に0円。

そんな中での4万円となれば、かなり倹約しなければならない。

だが、そんな心配をよそにTOKIの胸は躍っていた。

まるで探検旅行に行くような気分。

その日はいつもより力を入れて皿を洗った。

菊池と睦美が旅館を抑え、TOKIと菊池で具体的な交通経路を決める。

具体化してくる計画。

「あ!それで他に誰が参加するんだ?お前と睦美ちゃんの他には?」
「長谷川と麻美と静香かな?」
「え?長谷川は男だから良いとして、女の子が更に二人も来るのかよ?」
「女がいないとつまらないじゃん?」
「え〜…」
「何だよ、恥ずかしいのか?」
「いや、そういう訳じゃないけどさ。みんな大丈夫なのか?親御さんには了解を取ってるのかな?」
「大丈夫だって!」
「その辺をちゃんとしてないと俺は嫌だぜ?」
「相変わらず堅いな〜お前は」

男三人、女三人で二泊三日の旅行というシチュエーションが妙に気恥ずかしい。

でもそんな思いとは裏腹に得も言われぬトキメキもTOKIの胸の中に混在していた。

旅行が近づくにつれ、放課後、旅行参加者の6人が集まって計画を煮詰める日々が続いた。

ある日の帰り道、菊池が

「なぁ、お前、静香の事をどう思う?」
「え?何だよ、突然」
「いや、静香がお前の事を好きだって言ったらどうする?」
「は?なんだよ、それ?」
「例えばだよ。例えば」
「う〜ん、どうと言われても」
「好きなのか嫌いなのかって言ったらどっちだ?」
「いや、どっちでもない」
「どっちかって言ってるだろ!」
「う〜ん、いや、何とも思ってない」
「はぁ〜こりゃダメだ」
「何がだよ?」
「静香が可哀想って事だよ」
「何で?」
「もうイイ、もうイイ」

呆れ返る菊池。

(静香が俺の事を好き?)

その夜以来、旅行の打ち合わせで静香と顔を合わせるのが妙に照れくさくなった。

「ねぇ、これどう思う?」
「あ、あぁ」

TOKIの目を見つめる静香。

目を逸らしながら答えるTOKI。

そんなTOKIを横目で見つめながらニヤニヤ笑う菊池の底意地の悪さにTOKIは困惑した。

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