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第33回

「君が運転手?」
「…はい…そうです」
「君も怪我してるね、とりあえず3人は病院に搬送する。君は痛いところはないか?」
「…大丈夫です」
「事情だけ聞けるか?どうだ?」
「…大丈夫です」

虚ろに受け答えるTOKI。

「トシいくつ?」
「…18です」
「18?!免許取ったばっかりか?」
「…はい」
「それじゃ、親御さんに連絡しなさい。電話出来るか?」
「…はい、出来ます」

公衆電話まで付き添われ、自宅に電話を掛ける。

深夜3時、コール音だけが空虚な心に木霊する。

「…はい?」
気だるそうな母親の声が聞こえる。

「…母さん?事故、事故しちゃったよ」

「えっ!?」

声が途絶えた。

遠くで小さく(どうした?)と言っている父の声が聞こえる。

「どうしたんだ?」

受話器を取って替わった父が声を荒げる。

「あぁ、事故を起こしちゃったんだよ」
「車は?」
「グシャグシャになってる」
「…そうか、全部自分でカタをつけてこい。わかったな!?」

ガチャン!電話を切られた。

正直、ショックだった。

てっきり助け舟を出してくれるのかと思っていた。

(…何て冷たいんだ)

普段は散々「自分は一人前」と思っていた18歳のTOKI。

確かに働いて金を稼いでいる。

家に3万円ほどの食費も入れ、学費さえ自分で払っている。

でも、いざ自分の処理能力を超えた事に出くわすと、たちまち親に頼ろうとする。

そして、それを拒否されれば腹を立てる。

そんな自分への嫌悪感と父親への苛立ちが交錯して、精神的に不安定な状態になるが、今はそんな事を考えている場合じゃない。

「どうだった?」と救護隊員。

「あぁ…報告はしました」
「そうか、それじゃ君は三人とは別の病院になっちゃうけど、今から搬送する。いいか?」
「…お願いします」
「車はレッカーに持ってってもらう。荷物は君に任せて良いかな?」
「…はい」

血塗れになっている大量の荷物と一緒に救急車に乗り込む。

鳴り響くサイレン。

搬送された先は国立病院横浜医療センター。

病院に入るなり、止血、レントゲン等の精密検査をされる。

検査中、TOKIの頭の中には一つの事しかなかった。

「三人の安否」

大丈夫なのか?

命に別状はないのか?

特に菊池の流血はおびただしいものだった。

生きているのか?

気になって気になって、医師の言葉は全く耳に入らなかった。

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