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第37回

記憶が猛スピードで巻き戻る。

事故現場で警察官に言われた

「やらなければいけない事」

それは「戸塚警察署での詳しい事情の報告義務」「大破してレッカー移動された車の処理」「自賠責の保険会社との連絡を取り、事故と三人の入院の為の保険処理」その全てが何が何だかわからない。

何をどうして良いのかさえ分からない。

どういう手順で?

どこに行けば?

どういう書類が必要なのか?

三人の親御さんへの報告も即刻しなければならない。

分からない事があったら、親、友人、仕事の同僚、上司が教えてくれていた今までの人生。

携帯電話も無い、この時代。

電話番号なんて実家か友人の番号しか分からない。

親には事故現場での電話以降、頼るつもりはなかった。

頼っても自分が傷つくだけだと思っていた。

病院の前で立ち尽くす。

(世間というものは親じゃない)

18歳の少年は、この時、大きく成長する為の壁に直面していた。

こうしていても何も始まらない。

まずは戸塚警察に行こう。

もう空も明るい。

荷物も病院に置いてきた。

菊池達の安否も確認できた。

ホンの数時間前の鉛のように重たかった心は、嘘のように軽くなっていた。

効率良く移動する為の金も土地勘も無かった為、全て歩いて出向いた。

戸塚警察での事情聴取。

それを終え、戸塚警察で聞いた車のレッカー先に出向いて廃車処理の依頼。

支払いは振り込みで、という事で話は付いた。

車から取り出した保険書類から保険会社に連絡。

三人の入院先の病院名を告げ、書類の送付の依頼。

次々と未知の体験をした。

「初めてなので良く分からないんですけど…」と聞けば、誰もが丁寧に、分かるまで教えてくれた。

数時間前までは「世間は親じゃない」と、どこか突き放された気分だったのに、自分からノックすれば、誰もが優しくドアを開けてくれるものだ、という事を体験した。

被害妄想なんて、自分の行動次第で、如何様にも変えられる事をTOKIは学んだ。

夜6時。

とりあえず、今日出来る事の全てを終えて、自宅に帰るべく電車に乗った。

2時間ほどで自宅に到着。

帰るなり父親に叱責されたが、何も答えなかった。

終始無言で風呂に入り、着替え、早めにベッドに入った。

ベッドに入るなり、母親がそっと部屋に入って来た

「起きてる?」という母の問いにも答えなかった。

「ゆっくり休んでね」と言って、部屋を出て行こうとする母親。

ドアを締める間際に「一番辛かったのはアナタだったね」と言って、ドアを閉めた。

事故発生以降、一切涙を流さなかったTOKIは、母のその言葉に涙が止まらなかった。

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