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第4回

衝撃で零れ落ちる無数の1円と5円硬貨。

80円の品物を80円で買えないという理不尽且つ理解不能な事態と恐怖。

そして祖母のお金を無くしてはいけないという焦燥感で軽いパニック状態になりながらも地面のあちらこちらに拡散する硬貨を必死に拾い集めた。

路上で何回も「80円ある事」を確認し、家に向かった。

来る時には、あっという間に着いた僅か10数メートルの所にある家が何百メートルもあるように感じた。

家は戦前からの建物であった為、引き戸である玄関の扉の重みを一層感じながらも、TOKIの言葉を信じて待ちわびてた弟が飛びついてきた。

「あれ?お菓子は?」
「ゴメン、買えなかった」
「…お兄ちゃんの嘘つき!」

堰を切ったように大号泣する弟。

もう自分の力ではどうしようもない。

TOKIも弟を抱きしめて一緒に泣き叫んだ。

このエピソードを話してくれたTOKIは言う。

「あの時の事がトラウマになっちゃって、未だにクーポン券とか、割引券とか使えないんですよ。だって、こんなモノ使えないよ!とか言われそうでね(苦笑)」

これは筆者のうろ覚えの法律の見解で言えば店側に非は無い。

「迅速な流通の妨げになる」との事で過度な硬貨での支払いは商法上で禁止されている筈。

しかし、小学校に上がるか上がらないかの子供を掴まえて、こういう対応は人道的にどうかと思う。

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