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第52回

(切り刻まれた醜い身体で時限爆弾を背負わされたこの身体で、入退院を繰り返し細々と生きていく)

…耐えられなかった。

どうしても耐えられなかった。

TOKIは人目を盗んで病院の窓を開け、窓枠に足をかけた。

ここは3階。

下はコンクリート。

頭から落下すれば間違いなくこの地獄から抜け出せるだろう。

両親は悲しむだろう。

兄弟も、親戚も、友人も悲しむだろう。

だが、どうでも良かった。

それ以上に、こんな身体で生きながらえていく事に耐えられなかった。

(思い残す事は無いな?)

自分自身に問いかける。

(思い残す事は無いな?)

最終確認をした。

(…悔しい)

という感情が湧き上がる。

だが、その悔しさを克服出来ない身体になってしまっている。

(克服出来ない?何故?)

この身体は自分の努力ではどうにもできない。

現代の医学でもどうにも出来ない。

(克服する方法が無いじゃないか!)
(本当に?)
(あるなら自分が聞きたいくらいだよ)
(本当に?)

行きつ戻りつの質疑応答が心の中で繰り返される。

何気なく空を見上げた。

(明日の天気は晴れかな?雨かな?それとも曇りかな?)

今、自分が命を絶てば、そんな些細な事さえ知る事が出来ない。

少し恐怖を覚えた。

その恐怖は、どんどん心の中で大きく膨らんでいった。

(明日の全てを知れない、明後日も、明々後日も)

明日以降、起こる日常の全てを知れない。

全てを見聞きし、感じる事が出来ない。

「命を絶つ」という事は「未来を絶つ」という事と同義なんだという事をTOKIは知った。

命を絶つ事に恐怖は感じなかったけれど、未来を絶つという事には恐怖を感じる。

そんな気付きがキッカケとなって

(知り得る限りの未来は知りたい。命を絶つ事はいつでも出来る)

とTOKIは窓枠から足を下ろし、再びベッドで横になった。

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