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第59回

(見た事も無い子供の為に、しかも結城の子供の為に、なんで俺が結城を許さなきゃいけないんだ?そんな事知った事か!俺の未来と引き換えになるものってのは、そんなに甘いモンじゃないんだよ!この身体を見ろ!この傷を見ろ!これを許せってのか!ふざけんじゃねぇ!)
(その子に何の罪がある?)
(仕事を失うかもしれないだけだろ?別に死ぬ訳じゃない!貧乏くらい何だってんだ!俺はアイツのせいで死ぬかもしれないんだぞ!)
(その子に何の罪がある?)
(俺にだって罪なんか無い!全部悪いのは結城だろ?アイツ一人の為に俺も、奥さんも、子供もみんな被害を被ってるだけじゃねーか!)
(その子に何の罪がある?)
(許せば、結局、アイツが丸儲けになるだけじゃねーか!俺はどうなる?この怒りはどうなる?この身体はどうなる?何一つ報われない!何一つ悪くは無いのに、何一つ報われないじゃねぇかよ!)
(その子も何も悪くない)
(そんなの知った事か!見た事すら無いんだぞ!道で擦れ違ったって分からないような子だろうが!)
(その子は何も悪くない)
(その子は何も悪くない)
(その子は何も知らない)
(その子は目が見えないんだ)
(目が見えないんだ)
(その子の幸せを摘む事など許されはしない)

殺したいと思っていた人間を、いきなり許さなければならない。

いや、許さなくてもいい。

ただ、社会的な制裁だけはしないでいればいいんだ。

心の中では殺したいほど憎めばいい。

TOKIは今、抜き差しならない自分の身体の状況を忘れて、怒りのやり場を必死で探していた。

何日も何日も考えた。

そして一つの方法を見つけた。

「自分を俯瞰して見る」

つまり、今の自分をTV画面の中に押し込めて、TVドラマの主人公に仕立て上げ、もう一人の自分が、そのドラマを見ている、という設定で答えを導き出そう、という方法だった。

想像するまでもない。

自分が自分に望む事。

それは、たった一つだ。

…翌日、神谷に電話した。

「あ、神谷さんですか?この前はどうも。あの、結城さんに病院に来てもらえるように伝えてもらえますか?その時、出来ればで良いんですけど、結城さんのお子さんの写真を持ってきて欲しいと言っていた事も併せて伝えて下さい」
「え?それじゃ…」
「いや、まだ神谷さんの希望に応えれるかどうかは分かりません。そこには期待はしないで、とにかく、そうお伝え下さい」
「明日、いや、今日にでも出向くように伝えます!」
「わかりました。お待ちしています」

電話を切った。

病室に戻り、静かに目を瞑った。

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