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第7回

「今日はね、僕がお母さんにご馳走するから!」
「?!何?どうしたの?一体」
「いいから、いいから!何でも頼んでね」

調査は万全だった。

暇を見つけては何回もレストランに足を運び、路面に面しているショーウィンドーに列記されているメニューの全ての価格を把握し、記憶し、書き留めていた。

母親が何を頼んでも大丈夫!と万全の予算で臨んだ。

母も何か含んでいるようなTOKIの表情を見て素直に従った。

「じゃあ、コレを頼もうかしら」
「わかった!すいませ〜ん!」

とTOKIはウェイターを大声で呼んだ。

「ご注文はお決まりになったでしょうか?」
「あの、コレを一つ」

TOKIは母が指差したエビドリアをウェイターにオーダーした。

「あなたは何を食べるの?」

母はTOKIに問いかけた。

「ん?僕は要らないよ」
「そんな訳にはいかないでしょ?あなたも何か頼まないと」

…そうだった。

自分の分は忘れてた。

普通、こういった所に入ったら人数分の注文をしないと変だ、という事をTOKIはすっかり失念していた。

無論、自分の分の予算は持ち合わせていない。

「いいのよ。あなたも好きなものを頼みなさい」

顔から火が出るほど恥ずかしかった。

TOKIは自分の浅はかさと非力さに打ちひしがれた。

母に何かをご馳走したいという思いは、結局、母に負担をかけてしまう結果となった。

「早く、大人になりたい」

その夜、TOKIは枕を濡らしながら強く願った。

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