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第84回

(静江には既に新しい恋人が…しかも同居まで)

しかし、TOKIは自分の心が不思議なほど揺れない事に少し驚いていた。
(アレ?あんまりショックじゃないな)

その理由を何とか言葉にしようと自分自身で模索した。

そして、思い当たったその理由を言葉に変換した。

(多分、彼女が幸せになっているから、かな?)

静江が選んだ幸せ。

その為には自分は必要ない。

無論、今でも自分が静江を一番幸せに出来るという自負も理由もある。

しかし、それは自分自身の思いでしかない。

静江が選んだ幸せの選択。

それは無条件で応援したい。

彼女は笑顔になれるのなら、喜んで身を引こう。

彼女の幸せを邪魔する者は自分自身でさえも許しはしない。

TOKIの気持ちは晴れ晴れとしていた。
しかし、日常で笑顔になる事は、ほとんど無くなっていった。

(自分には音楽がある。今はやれる事を全力でやろう!)

静江が離れていってからというもの、TOKIは情緒が不安定になっていた。

バンドのメンバーにも無気力な対応をし、迷惑を掛けていた。

しかし(静江が新たな幸せを見つけた、自分はそれを応援したい)

こう踏み切った時から、再びTOKIの目に力が宿り始めた。


時は1996年。
Kill=slaydは音楽事務所と契約した。

TOKIは、それを機に今までの金髪から黒髪に戻し、事務所からの指示でTOKIに徹底したヴォイストレーニングが課された。

そして肝いりで制作された音源。

インディーズラストシングルと銘打った4曲入りCD「Krank」。

これが全国の各チャート1位を総ナメした。

「Krank」の2曲目に収録されている「Libido」という曲の歌詞には「愛を諦める代わりに、俺の証を焼き付けてくれ」とある。

C4の歌詞で自ら提唱している「自身の事を切り取る」という手法はこの頃、確立されていった事が推察できる。

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