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第98回

「いや、あの頃の自分っていうのは、こんな風に思ってたんです。えっとね、まず、如何にミュージシャンなんてモノは社会的に信用を得られないか?という事ね。収入が不定期という事は社会的信用が得がたい。更に自分がやってきた、いわゆる"ヴィジュアル系バンド"で言うなら、白髪頭だったり中年太りでやれている例が見つからなかった。故に、ある程度の年齢までしか活躍できない割には、未来が約束されていない。何て儚くモロい職業だろうと。音楽をやるのはイイけど音楽以外の世界では相手にされないからって音楽に依存してズルズルやっていけば、薬物中毒のように最後はボロボロになって終わるのが目に見えてる。「職業と呼べるだけの観客もいない」、「ライヴハウスのステージだけでしか社会的に相手にされない」、そんな男になるのはゴメンだ!ってね。俺はヤメて良かった。きっと良かったんだって、まぁ、当時そんだけ思ってて、まさかまた自分がやるとは思わなかったです。人生ってのは本当にわからないです(苦笑)」 自分に音楽なんて必要ない。

音楽をやってるヤツに俺の力を証明してやる、と言わんばかりに仕事で実績を出す。

多分、そうする事が音楽の世界で生きていく事が出来なかった"ヴォーカリスト、TOKI"という存在に対してのレクイエムというべき意志。悔しいのか、敵討ちのような感じだったのか、それは何とも形容しがたいが、TOKIの言っている事は一応の筋道は通っていると思う。

だが、アーティストやクリエイターというものは、その日暮らしが基本で、信用よりも何よりも己の生き様、生き方を貫く事に重きを置いているとも言える。

後にC4で復活するTOKIも、そういう心情でなければ再びシーンに戻る事は無かった筈なのだから。


起業から6年。実績は右肩上がり。まさに順風万端。


そんな時、一本の電話が鳴った。
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