prev
next
第99回

2005年9月。

TAKUROから電話。

「TOKIさん?久しぶりにメシでも食わない?」
「あぁ、いいよ」

最後のライヴから6年。

音楽から引退してから約2年半。

二人の間に音楽関係の話は世間話や近況報告程度にはあったが、基本的には全くと言っていい程しない。

しかし、互いの誕生日や、年末年始、冠婚葬祭、もしくは悩み事に出くわした時には必ず会ったり連絡を取り合ったりしていた。

TOKIがKill=slaydを終え、STEALTHを終え、音楽人でなくなった途端に音楽での交流があった人間全てから連絡は来なくなったが、GLAYのメンバーだけが昔と少しも変わらぬ関係でいてくれた。

TOKIには、それが誇らしかったし、何より嬉しかった。

自分の音楽人生で残されたものは、かつてリリースしたCDやビデオ、そして音楽の関係を超えた友人としての彼らとの出逢い。

何も手に出来なかった訳ではない。

出逢いがあって、それが人間関係となって今も息衝いている。


待ち合わせ場所に向かい、TAKUROと落ち合う。

くだらない笑い話をしながら軽く食事をし、「少し歩きませんか?」というTAKUROの言葉に、陽が落ちかけた恵比寿の街の人通りの少ない場所を散策する。

「ちょっと困った話があるんですよ。その辺に座って聞いてもらえませんか?」

天現寺の高速道路の高架下で、いつもより多少神妙な面持ちなTAKURO。

「ん?あぁ」

自販機で缶ジュースを二つ買い、TAKUROに手渡しながら言われるがままに路肩に腰を下ろした。

「なに?どうしたの?」
「いや、事務所が大変な事になってるんですよ」
「大変って?」
「凄い負債を抱えちゃって…多分、近々倒産すると思います」
「え!?」
「ホラ、ウチって事務所もレコード会社も、ある意味一体じゃないですか?多分CDとかも当分出せなくなりますね」

…衝撃だった。

ライヴは相変わらずドコでやっても超満員。

TVにだって相変わらず出ている。

なのに何故そんな事に?


詳しく事情を聞くと、もう立て直せる状況ではない事、そして会社の倒産劇にはよくありがちな危険な筋の人間の出入りもあるようで、全てのスタッフはもちろん、常に笑顔で親身になって傍にいたマネージャー、信頼を置いていたディレクター、家族ぐるみで付き合っていた取締役、その他、ありとあらゆる人間が事務所の象徴であり根幹である「GLAY」という存在からの飛ばっちりを逃れる為に離れていったという。

「何をどうして良いのか、さっぱりわからないんですよね…」


どんな窮地でも屈せず、類まれな行動力と厚い信用があり周りの誰もから頼りにされているTAKURO。

そんなTAKUROが言葉を詰まらせ気味になっている。

遠くを見つめるTAKUROの横顔を見て、TOKIは言った。

prev
next