------第81回



TOKIは部屋に篭って、静江との事を考えた。


(俺が手術後、意識の無い時に、神社で裸足になってお百度参りをしてくれたんだよな)
(俺が、こんな雑巾みたいな身体になった時に、あの子は何事も無く、いつも通りに接してくれたな)
(俺が、病院で「明日発売」という車の雑誌の広告を見ていた時に「あ、この本読みたいな」って言った時、あの子はその日の深夜にコンビニに並ぶ、その本を買って、朝一番で届けてくれたっけな)
(薬の副作用で歩けなかった時に肩を貸してくれたな)etc.etc.


気が付けば今の自分の「生きる原動力」となっているのは「誰かに必要とされる事」になっていた。


Kill=slaydの活動を楽しみにしてくれている大勢のオーディエンスと、バンドメンバー、スタッフ。


数年前には病室で一人っきりだった自分が、いつの間にか、こんなに沢山の人に必要とされる存在になっている。


だが、そうなるまでになれたのは間違いなく静江のおかげだ。


そして自分は彼女を幸せにしなければいけない存在という覚悟も強くあった。


TOKIは自分の中にある覚悟を再確認して、静江と再度話し合いたいと何回も連絡するが、静江は完全にTOKIを避けていた。


そんな事を繰り返していく中で(これ以上、追いかければ静江はより拒んでしまう)と考えたTOKIは(彼女から自主的に連絡が来るまで待つ)というスタンスに切り替えた。


そして数ヵ月後。


静江から電話が鳴った。


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------第82回



「もしもし?」


どこか暗い静江の声のトーンに対し「おぉ!久しぶり!」と暗いムードにならないよう明るい声で応えた。


続けて嬉しさのあまりTOKIは矢継ぎ早に話した。


「ちょっと落ち着いた?いや〜何か少し照れ臭いね〜」


明るいTOKIの口調に対し、静江は静かなトーンで


「あのさ、私の実家のアパートが急に取り壊される事になったの。それでさ、急に一人暮らしをしなきゃいけなくなっちゃったの」


静江の実家は古いアパートで、確かに老朽化が進んでいた。


「え?そうなんだ。かなり大変じゃない?」
「うん。それでね。部屋を借りる為のお金とかが必要なんだ」


(俺のマンションで暮らせば良いじゃないか!)


TOKIはノドまで出掛かった。


が、その言葉は飲み込んだ。


言いたいけど、言わない方が良い。


TOKIは静江の声のトーンから、それは感じ取った。


「ねぇ?聞いてる?」
「あ、あぁ!聞いてるよ!」
「でさ、その資金がね…」
「うん!大丈夫だよ!困ってるんでしょ?俺が用意するよ!」
「本当!?助かる〜!出来れば家財道具も揃えなきゃいけないから…」
「全然、大丈夫だよ!」


TOKIは嬉しかった。


静江の喜んでいる声を久しぶりに聞けた事が何より嬉しかった。


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------第83回



翌日。


静江が希望した金額を銀行で振り込んだ。


(礼の電話が掛かってくるかもしれないな)


TOKIは静江から電話が鳴るかもしれないという思いから携帯電話を手放さずに何日も過ごした。


しかし静江からの電話は一向に鳴らない。


(鳴らないかな?鳴って欲しい)


そんな時、一本の電話が鳴った。


見覚えのない番号。


「ハイ、もしもし?」
「あの〜TOKIさんの携帯ですか?」
「はい、そうですけど?」
「私、わかりますか?」
「え?」
「静江の友達の真由美です」
「あぁ〜真由美ちゃんか!久しぶりだね、どうしたの?」


静江の中学時代からの友人、真由美。


彼女とは静江を通じて何回か会った事がある。


「TOKIさん、静江の事なんですけど」
「え?うん、なに?」
「TOKIさん、別れたんでしょ?」
「ん?いや〜、自分的にはちょっと微妙な感じなんだけどね」
「…」
「あれ?もしもし真由美ちゃん?」
「TOKIさん、もう静江には新しい彼氏がいるんです」
「え?」
「TOKIさん、何日か前に静江にお金を振り込みました?」
「え?あぁ、うん」
「200万円ですか?」
「うん」
「静江に新しい彼氏が出来たのは聞いてたんですけど、新しい職場になってから静江は変わったじゃないですか?私も戸惑ってるけど、今でもたまに街でお茶したりするんです。その時に静江からTOKIさんとは別れて、新しい彼氏が出来たから一緒に住むところ探してるって聞いて、私がお金あるの?って聞いたらTOKIさんから借りるって聞いたんです。それで私がそれはおかしいよ!って言ったら静江が怒っちゃって…」
「…そうなんだ」
「それから静江が「この前はごめんね」っていう電話を掛けて来て、その時にも、お金の事を聞いたら、もう何とかなったって言うから、それはどうしたの?って聞いたら、やっぱりTOKIさんに用意させたって聞いて…」
「…うん」
「金額が金額なんで、私が、それは絶対に返した方が良い!って言ったら、やっぱりまた怒っちゃって…」
「…そうなんだ」
「でも、貸す方も貸す方ですよ!お人好しなのにも程があります!」
「いや、お金は貸したんじゃないよ。あげたんだ」
「同じ事です!」
「うん、そうだね」
「TOKIさんが、そんなだとあの子どんどんダメになっちゃいますよ!大体、自分の元彼女の新しい彼氏との新居費用を出すなんて人がドコにいるんですか!」
「ハハハ、言われてみりゃその通りだね」


TOKIは振り込んだ金が新しい恋人との新居費用とは知らなかったが調子を合わせた。


「とにかく私は返した方が良いって彼女に言いますから」
「あぁ、でも仲良くしてあげてね?」
「今の静江は、ちょっと変なんです。でも私はずっと見守ってますから」
「うん」
「それじゃ、突然電話かけちゃってすいません」
「いやいや、ありがとうね」


電話を切って、TOKIは部屋の天井を仰いだ。


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------第84回



(静江には既に新しい恋人が…しかも同居まで)


しかし、TOKIは自分の心が不思議なほど揺れない事に少し驚いていた。


(アレ?あんまりショックじゃないな)


その理由を何とか言葉にしようと自分自身で模索した。


そして、思い当たったその理由を言葉に変換した。


(多分、彼女が幸せになっているから、かな?)


静江が選んだ幸せ。


その為には自分は必要ない。


無論、今でも自分が静江を一番幸せに出来るという自負も理由もある。


しかし、それは自分自身の思いでしかない。


静江が選んだ幸せの選択。


それは無条件で応援したい。


彼女は笑顔になれるのなら、喜んで身を引こう。


彼女の幸せを邪魔する者は自分自身でさえも許しはしない。


TOKIの気持ちは晴れ晴れとしていた。


しかし、日常で笑顔になる事は、ほとんど無くなっていった。


(自分には音楽がある。今はやれる事を全力でやろう!)


静江が離れていってからというもの、TOKIは情緒不安定になっていた。


バンドのメンバーにも無気力な対応をし、迷惑を掛けていた。


しかし(静江が新たな幸せを見つけた、自分はそれを応援したい)


こう踏み切った時から、再びTOKIの目に力が宿り始めた。



時は1996年。


Kill=slaydは音楽事務所と契約した。


TOKIは、それを機に今までの金髪から黒髪に戻し、事務所からの指示でTOKIに徹底したヴォイストレーニングが課された。


そして肝いりで制作された音源。


インディーズラストシングルと銘打った4曲入りCD「Krank」。


これが全国の各チャート1位を総ナメした。


「Krank」の2曲目に収録されている「Libido」という曲の歌詞には「愛を諦める代わりに、俺の証を焼き付けてくれ」とある。


C4の歌詞で自ら提唱している「自身の事を切り取る」という手法はこの頃、確立されていった事が推察できる。


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------第85回



事務所のプロデューサーから、一本の電話が鳴った。


「TOKIか?ちょっと事務所まで来れるか?」
「あ、ハイ」
「でさ、一人で来て欲しいんだよ」
「あ、ハイ」
「他のメンバーには内緒でな」
「え?何でですか?」
「それは会った時に話すよ」
「わかりました」


(なんだろう?)という思いを抱きながらTOKIは神宮前にあった事務所まで車を飛ばした。


「お!来たな。じゃ、ちょっと近くの喫茶店にでも行こう」


と、到着したと同時にプロデューサーに誘われるまま近くの喫茶店に入った。


「で、どうしたんです?」


TOKIは席に座ると同時に、車での道中で引っ掛かっていた疑問の答えを求めた。


「うん、デビューの内諾を得てるレコード会社との折衝の中で、凄く良い条件を提示してきたトコがあってな」
「え?マジっすか?」
「あぁ、社長とも話したんだが、ウチの会社としても、その契約で話を進めたいと思っているんだ」
「はい」
「ただな、それには条件があるんだ」
「どんな?」
「お前一人だけって事なんだ」
「え?」
「Kill=slaydは解散して、お前のソロという形でなら良い待遇で契約したい、と言ってきてるんだよ」


TOKIは言葉を失った。


そんなTOKIに矢継ぎ早にプロデューサーは続けた。


「いいか?俺は音楽はビジネスだと思っている。それは時にこういう一見残酷な事も往々にしてあるんだ。でもな、そういう事を背負っていってこそ、音楽を仕事に出来るんだ」
「それは、出来ません」


TOKIはようやく思考がまとまり言葉を発した。


「わかる!お前の気持ちはよく分かる。だけどな、今のIZAが他の華のあるギタリストに勝てるか?JUNNAやKAZUSHIだってそうだ。フィロソフィアとKrankのPVをレコード会社のお偉いさんが見て、ボーカルの方だけなら、と言われた時に俺は否定できなかった。俺も他のメンバーは好きだ。だけどな?仕事となれば話は違う。それは分かってくれるな?」
「…」


再び言葉を失ったTOKI。


「混乱するのはよく分かる。今、答えを出せとは言わない。少し考えてみてくれ」


伝票を取り、TOKIを出口へと促すプロデューサーに誘われるまま、TOKIは路上でプロデューサーと別れた。


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------第86回



「ねぇ?もっとさ、練習しない?」
「ねぇ?もっとさ、俺達の存在を高める為に案を出し合わない?」
等々。


TOKIはメンバーに訴えた。


もちろん、ソロデビューの話しは伏せての事。


勘ぐられない程度に、合う度合う度TOKIはメンバーにさりげなく訴え続けた。


しかしメンバーからの反応は「何で?」「それなりに忙しいんだよ」等、前向きな意識は得られなかった。


リハーサル代も、衣装も交通費も事務所負担。


それなりに給料も出ていて、メンバーは満足しているようだった。


どころか「ねぇ、レコード会社って、いつ決まるの?」のような自分の人生なのに、どこか他人任せにしているような態度。


メンバーを傷つけまい、としていた優しさは実はマガイもので、このままでは結果的に不幸な結果に陥ってしまう。


本物の優しさとは厳しさを伴うものなのかもしれない。


TOKIはとうとう告白した。


「レコード会社が決まらない理由を教えようか?事務所が俺のソロでやりたいって言ってるからなんだよ!それを俺が止めているからなんだよ!レコード会社の契約金とか条件とかで一番イイのが俺のソロデビューなんだとさ。お前らは金にならないって言われてるも同然なんだよ!悔しくないのか!」


ぬるま湯にどっぷり浸かってた時に現実という名の冷水を浴びせるようなTOKIの怒号にメンバーは沈黙した。


TOKIは続けた。


「俺はソロなんかでデビューするつもりは無い。お前らと一緒じゃなきゃ意味なんて無い。ただ、そういう現実である事だけは認識してくれ」


このTOKIの言葉にメンバーは覚醒した。


「わかった。最近TOKIちゃんが、そういう事を良く言ってたのは、そういう事だったんだね」
「うん」
「今からどこまでできるか分からないけど、精一杯やってみるよ」
「ありがとう」


以降、メンバーでのミーティングも熱を帯び、どんなにキツくても練習はやるようになった。


しかし、それは一朝一夕でどうにかなるものではなく「バンドでなければデビューはしない」というTOKIの姿勢と事務所との対立の溝が深まる事となっていく。


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------第87回



「条件の悪い契約じゃダメなんですか?契約は契約じゃないですか!」


「お前は何にも分かってない」プロデューサーとの対立は深刻なものになるばかりだった。


あくまでバンドに拘るTOKIと、音楽はビジネスと捉えている事務所。


TOKI一人になればメンバーに掛かる費用も4分の1。


しかも契約内容も良い。


事務所の言い分も当然だった。「情」、TOKIはそれが捨てられなかった。


メンバーを捨て自分だけ生き残る。そして、のうのうとデビューする。


そんな自分には耐えられなかった。


メンバーも頑張ってきてる。


しかし、現時点で事務所が求めるだけの「華」ともいうべき存在感を努力で出すという事は難しい。


音楽的な技量は、メンバー共にほぼ横一線。


しかし、TOKIだけがミュージシャンという枠を超えた「何か」を持ち合わせていたのだろう。


結果、事務所との溝は埋まる事は無く交渉は決裂。


事務所の移籍が決まった。


TOKIはこの頃、音楽を始めるにあたって「自分の可能性の追求」「自分の居場所を創る」という当初の目的は、いつの間にか、ある程度果たしている事を自覚していた。


念頭に行動してしまっている自分に気付く。


「上り続けていなければいけない」といったような概念に、いつのまにか縛られ、本当に大事な事を見失ってしまっているような気がしてならなかった。


「俺は、一体どうなりたいんだろう?」


考えても考えても何も見つからなかった。どこまでが欲しくて、どこまでを叶えたいのか?


それが全く見えなかった。


混迷する意志のまま、事務所を移籍した直後、メジャーデビューが決まった。


レコード会社のスタッフに囲まれ、まるでサラリーマンのような日々。


売れなければ自分の意志も意見も何も反映はされない。


しかし、売れたいという意識は、この頃には既に希薄だった。


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------第88回



全てに薄い膜が張られているように感じる日々。


何事もリアルには感じない。


心は出口の無い飢餓感に苛まれ気迫が宿らない。


日々のスケジュールだけをこなし、眠りに就く。


シングル、アルバムを創る。


プロモーションの為の取材を受ける。


タイアップを取る為に「先方が見に来るから、くれぐれも演奏は丁寧に」と釘を刺されたLIVEをこなす。


TOKIの感情の起伏はどんどん低下していった。


しかし、それでも自分には居場所がある。


やるべき事がある。


活動を楽しみにしてくれているファンがいる。


それだけがTOKIの支えだった。


そして1997年メジャーデビュー。


渋谷クアトロで行われたデビューライブは満員御礼。


だが、この頃には既にC4の楽曲での根幹となっている「歌詞は自分の人生を切り取る」という手法を未熟ながらも徐々に用いていた為、自身のモチベーションがダイレクトに歌に出てしまう事も相まって、歌う事に辛さを感じるようになってしまっていた。


この頃のTOKIの歌詞を紐解くと自己に対して辛辣な印象を持つものが多く見られる。


TOKI自身に、その時代の事を聞いてみた。


「あの頃は迷走してましたね。何の為に歌うのか?っていう部分が全然見えていなかった。後にC4の「流転の果て」っていう曲でも書いている事なんですけど、「幸せ」っていうモノの正体がまるで解らなかった。頑張っても頑張っても、辛さばかりで、一向に幸せに向かっている感じが得られなかったんです。一日がとても長く感じてましたね。バンドを組んだ頃の楽しさとか、トキメキとか、一体ドコに行っちゃったんだろう?メジャーデビューするとか、ドコソコでワンマンやるとかさ、あれだけ望んだ事なのに、そんなの叶えてみても全然幸せを感じない自分に本当に戸惑ってました。 でも、メンバーもいるし、何より応援してくれているファンの方々がいたので、今は解らないけど、いずれ解るかもしれない。とにかく目の前のやるべき事をやろう。まぁ、突き詰めればソレしか出来なかったですしね」


音楽に正直でいる事がマイナスに作用してしまっている時期。


(いつか幸せになるんだろう)


という希望的観測を抱えて、日々の取材やレコーディングをこなす日々が続いた。


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------第89回



1998年。


インディーズ時代にリリースしたKrankをリメイクした2ndシングルの発売を機に、立て続けに3rdシングル「Masquerade」、初のクリップ集となる1st VIDEO「TEMPEST」の連続リリース。


そして、2nd Album「Higher」のリリースが決まった。


その際のメンバーミーティング時に唐突にベーシストであったJUNNAが言った。


「あのさ、俺、バンド抜けたいんだよね」
「え?」


TOKIは絶句した。


「しかも俺だけじゃない。KAZUSHIも」


TOKIは咄嗟にIZAを見た。


するとIZAは重く口を開き、


「俺も、このままやってて良いものか考えてるんだ」


確かに、この頃のKill=slaydは自分達で好き勝手にやっていた、かつての勢いは無く、ただただ浮きも沈みも無い音楽で生活しているだけの日々。


「辞めてどうするの?」


というTOKIの問いにJUNNAは


「うん、KAZUSHIとは、また新しいバンドを組んでみたいと思ってるんだ」


それを受け、沈黙のKAZUSHI。


どうやら二人の間では既に結論が出ているらしい。


IZAは


「俺には、もう分からない」


と俯きながら言い、最終的には出た結論に従うとの事。


TOKIはレコード会社や事務所に対しての誠意として、辞する理由を問い正した。


しかし、明確な答えが返ってこない。


業を煮やしたTOKIに対してJUNNAが言った。


「わかった。じゃ、ハッキリ言おう。TOKIだから売れないんだと思う。申し訳ないんだけどね。実は既に新しいボーカルを決めてて、ソイツとだったら売れると思ってるんだ」


そのボーカルとは元々ドラマーで、JUNNAとの新バンド結成を機にボーカルに転向するとの事。


そのボーカルとも面識があったTOKIは


「本気で言ってるの?」


と聞いた。


「あぁ、本気だよ」


JUNNAが自信満々で言い放った。


その言葉にはKAZUSHIも頷いた。


それを見た時にTOKIはKill=slaydの解散を受け入れた。


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------第90回



互いが互いの価値観を認め合えない。


そんな状態でKill=slaydの解散LIVEの日程が決まった。


奇しくも10月31日。


TOKIが29歳を迎える誕生日である。


会場は最も思い入れのある市川CLUB GIO。


TOKIは最後の最後まで「彼らが思い直すかもしれない」という期待を込めて、解散ではなく、活動休止という表記を採った。


そして迎えたライヴ当日。


楽屋で4人は一切口を聞く事も無く本編が始まった。


それぞれがそれぞれに、思いの丈をぶつけるライブ。


アンコールの声にも応える事無く、Kill=slaydは消滅した。


終演後も「サヨナラ」「お疲れ様」という言葉も一切交わさないままメンバーと別れた。


ライヴを見に来ていたTAKUROがTOKIを心配し、TOKIの自宅マンションにまで付き添う。


部屋で憔悴し切ったTOKIをTAKUROが精一杯励ました。


「いいじゃないスか!気休めじゃなくて今日のライヴでTOKIさんは100点満点だったよ。まだまだこれからッスよ!」
「うん…」
「まぁ、今は考える事が色々あるだろうけど、落ち着いたら電話下さいよ?待ってますから」
「うん、本当にありがとう」
「…TOKIさん、俺が曲を書くから歌ってみる気ない?」
「え?」


TOKIは聞き返した。


GLAYはこの頃、既に国民的な人気を誇っており、TAKUROの言葉に正直、驚いた。


「気を使ってくれて言ってくれてるんだろうけど、お前にそんな事させられないよ」
「俺がやろうって言ってんだからイイじゃない!嫌なの?」
「いや、嫌じゃないけど」
「TOKIさんの歌には何かを感じるんだよ。そうじゃなきゃ如何に親友でもそんな事は言わないよ?」
「とりあえず、とりあえず素直にありがとう、とだけ言わせてくれ。情けないけど今は何にも考えられない」
「まぁ、いつでも俺がついてますから、ドーンと構えてて下さいよ!近々、俺ン家で曲の選考会ね。電話しますから」
「あ、あぁ…ありがとう」


TOKIは、その夜を最後に「Kill=slaydのTOKI」ではなくなった。


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